
【沖井の冬楽曲解説 その6】シンバルズ「My Brave Face」(後編)
沖井が過去に作ってきた「冬楽曲」について一曲ずつよもやま話をしていきます。今回はシンバルズの2ndミニアルバム『Missile & Chocolate』および3rdシングルから「My Brave Face」のお話(後編)を。
https://youtu.be/PTqj58iVxUU?si=e55DzKzBmYXxXR2f
https://youtu.be/Ixf6vTmJz6Y?si=uOMsAZKzJ2_hzMZg
前編から引き続きシンバルズ「My Brave Face」のよもやま話をしていきます。
シングルバージョンのピアノはCITROBAL米山美弥子さん。実に彼女らしいダイナミックかつリリカルな演奏です。これを録音した西永福のパワーハウス・スタジオもコロナの影響で無くなってしまいました。TWEEDEESでも沢山お世話になったスタジオです。いい思い出しかないスタジオでした。おのれコロナめ。僕は絶対に許さん。絶対にだ。あそこのYAMAHAのピアノ、個性的な音で大好きだったんだけどな。今はどこにあるんだろう。
ミニアルバムヴァージョンのギターはエレキ・アコギ共に僕が弾きました。この曲のアコギは今まで録音したすべての曲で一番好きな音に録れていてお気に入りです。シングルバージョンのギターソロはTHE COLLECTORSの古市コータローさん。スタジオに入るや否や、満面の笑みで「沖井くん、今回のイントロのベースは(THE WHOのジョン・)エントウィッスル?」って訊いてくれたのが嬉しかったw。元ネタをわかってもらえると嬉しいものです。
https://www.youtube.com/watch?v=wqPlb5PLBvg
The Whoさいこう。だいすき。
ミニアルバムバージョンの随所に入ってくる「ヘヘイヘイ」というコーラス。「ヘヘイヘイ」さえ入っていれば60’sのタムラ・モータウンやスタックス・ヴォルトへのリスペクトが伝わるだろうという僕の安易な発想ですが、でもあそこは「ヘヘイヘイ」しか無いですよね。録音の際、HAL STUDIOのエンジニア三好さんが「沖井君がバカラック調の楽曲を作るとは思わなかった」とおっしゃって二重にびっくりしました。「僕もバート・バカラックは好きですよ!」「そしてこれはバカラックではなく、60’sソウルミュージックのつもりですよ!」もちろんその場では「ええ〜そうですか〜?笑 ありがとうございます!」みたいに返したように思いますが。
シングル・ヴァージョンの間奏の多重コーラス。僕が多重コーラスの密集和音にハマり始めた最初の時期。Roland VS1680による宅録。ビーチ・ボーイズやフォア・フレッシュメンに憧れて。まだ声の出し方も重ね方も全然わかってないし、稚拙だ。エンジニア根本さんへの各パートの混ぜ方のディレクションも全然できていなかった。でも今聴けば熱意は伝わるw。もう一度やり直したい気もするけど、この稚拙さも記録ですね。(だがピッチ修正くらいはやらせて欲しかったw)
録音での使用ベースは両バージョンともRickenbacker 4003S。シングルのMVではVOX Stinger IVを弾いてますが、これはSMALL FACESのTVショウのスタジオセットを丸々再現した設定に合わせた楽器チョイスでした。より60’sらしく、というか。MVで着ているテイラードカットの黒のレザージャケットもSMALL FACESのベーシストであるロニー・レインをリスペクトしたスタイルです。しかしMVチーム、僕が持ち込んだたった一枚のSMALL FACESの写真を元に、よくぞここまで撮影セットを再現してくれたものです。MV制作はもちろん山口保幸さん。アニメーション担当は京都のパット・ディテクティヴのチーム。パットさんチームはその後2ndアルバム「Mr.Noone Special」ジャケやブックレットのイラストも担当してくれました。
ミニアルバムバージョンとシングルバージョンの録音のインターバルがちょうど一年程度、ということに今更ながら驚きます(98年夏と99年夏)。たった一年でシンバルズがどれだけ成長したかわかります。バンドは生き物。それにしても急激な成長です。かなり成長痛もあったことでしょう。これがあるからバンドというのは面白いですね。我々メンバーはこのバンドそのものの独立した人格のようなものを「シンバルちゃん」と呼んでいましたが、この後はシンバルちゃんの成長にメンバー三人が引き摺られて導かれていくような状態になります。
この曲を作ったのが1998年。26年も前に作った古い曲にも関わらず、今でも若い人たちや海外の人たちに再発見され、可愛がってもらえていることが心から嬉しいし、誇らしく思っています。1998年の26年前といえば1972年。日本でいえばはっぴいえんどが解散する年。細野さんの「HOSONO HOUSE」も発売されていないし、山下達郎さんのシュガーベイブはデビューすらしていません。海外ならばTHE WHOはまだ「四重人格」は制作中、ストーンズは「メインストリートのならずもの」を、スティーヴィ・ワンダーは「Talking Book」を出したのがこの年。マーヴィン・ゲイ「What’s Goin’ On」も前年に出たばかり。つまり、1998年の僕にとってもその26年前は大昔だったわけです。なにしろ3歳でしたから。ながいながい時間です。そんな長い間、この曲を可愛がってくださった皆さんや、そんな昔の音楽を見つけてくださる皆さんに心から感謝したく思います。
この曲のシングルバージョンのミックスが終わった時、僕は初めて「満足のできる作品が出来た」と思いました。それがあんなにも嬉しい感慨だったからこそ、今でも音楽を続けていられるのだと思います。これからもどうか、皆さんよろしくお願いいたします。
沖井

